ライダーに悪い人はいない。なぜそう言われるのか、どういう根拠によるものなのか、よくわからない。暴走族ってライダーだっているのに。
ある年の夏、釧路にやってきたとき、炉端のお店に入ろうとのれんをくぐろうとすると、後ろから女性に声を掛けられた。女子高生の娘と母の二人で、はるばる栃木から旅行に来たのだという。そして、女二人だと心細いので、ぜひ一緒に食事をしたいのだと。食事代も全部出すというのだが、そんなおいしい話には裏があると疑うのだが、店の前で立ち話をしていても、悪い人たちには見えない。
ボディーガードみたいなもの? そんながっちりしているわけでもないし。なぜ自分が? バイク乗りに悪い人はいないから、と言う。腑に落ちないままお店の中に入ることに。
でも、焼き魚を食べながらの会話は、ごく普通。高校生の娘さんは、高校でバレーボールだったか、部活に一生懸命な普通の女の子。初対面の自分には少し引っ込み思案。
釧路に来た目的のひとつに『ボタンエビ』を食べることらしい。さすがに貧乏学生が釧路に来て寿司を食べるほどリッチではないので、下調べも知識もない。じゃあ適当にお寿司屋を探して、食べに行こうとなった。
寿司を食べるほどお金がない。いやどのくらいするのか全く見当がつかない。
「いいの、いいの。私が出すから」と、先ほどの炉端に加え、寿司までおごってくれるという。それにしても、炉端でたらふく食べて、まだ食べるの?
さすが釧路なので、寿司屋はすぐに見つかる。歩道のある道路に面した寿司屋に入る。
「ボタンエビ」を食べたいと告げると「釧路にはボタンエビはないんだよね」という返答。店員同士ボタンエビって何? って言っていたほど。今だとネットで検索すると釧路産のボタンエビはいくつも出てくるのですが、当時はそうだったのかもしれない。
結局甘エビばかりを注文し、もうお腹はパンパン。
そして、その店の前でその親子ともお別れ。
この日の晩飯は、一銭も払わず。そんなおいしい話があるなんて。人助けになったのか? そんな意識は全くなし。
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