別海の夜と野付半島

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 ライトのバルブ切れというトラブルにあい、到着が遅れた。すっかり日が暮れた別海の街は静かだった。予約をしてあった宿にチェックインをして、まずは食事に出かけることにした。釧路などのホテルの感覚で、この辺りの食事場所の地図をもらえないかと頼んだところ、「まっすぐ行った交差点付近にいくつか居酒屋があります」とのこと。考えてみれば案内図なんていらないほど小さな街である。礼を言って、言われたとおり、交差点まで歩いた。街灯もなく真っ暗な夜道。霧が立ち込める中では、歩く先の交差点の明かりが道しるべである。

 確かに小さな繁華街と呼べなくもない場所にたどり着いた。交差点の北側に位置する宿なので、実はこの交差点は先ほど通り過ぎたばかり。バイクでは一瞬で通り過ぎる風景もこうやって歩いてみるといろいろあるものだ。最初に目に入ったのは、北海道内ではどこにでも見かけることができるコンビニ。最悪の場合は、コンビニの弁当でも買って戻ればいいかな、目星を付け、近辺をもう少し歩くことにした。小さな食堂兼居酒屋を見つけて、のれんをくぐる。地元の人が酒を飲みながら話し込んでいる中、一番入り口側の席に着いた。安いチャーハンを注文し、調理をするのを待つ。店内を見渡してもごく普通の食堂である。昼間は食堂で、夜になると居酒屋になるというのは珍しい話ではない。食事をした後はそそくさと店を出て、来た道を戻る。地図を見るとこの辺りは、町役場・消防署・町立病院などが集中するこの街の中心部であることがわかる。しかし、大きな建物があるわけでもなく、やはり静まりかえった道には、自分のライディングブーツの歩く音しかしない。コンビニで買ったビールを飲みながら、広くて何もない部屋でくつろぐ。北向きの窓の外は真っ暗で、何も見えない。虫たちの合奏が一晩中奏でられ、そのコンサート会場で意識は遠のいてくる。

 朝は、鳥たちのさえずりで目覚める。身支度をして、朝食を食べにいく。フロントには誰もいない。振り返ると食事場所がある気配がした方向へ行くと、昨夜案内してくれたフロントマンが忙しく客の対応をしていた。このような地方の宿では、フロントはフロントだけというわけではなく、多くの仕事を兼任しているのだろう。昭和天皇が泊まったことがあるというこの宿は、お召し上がりになった食事がケースに入っていた。とはいいつつ、茶碗や皿の上には何も載っていない。以前は蝋細工の見本が載せてあったのだろうか。食事はごく普通でありながら、満足できる味であった。食後の透明なテトラパックの別海牛乳も印象的であり、コクのある牛乳である。酪農地帯であることを感じさせる。

 まぶしい朝日を浴びながら、バイクを海側へ走らせる。広大な根釧台地を見渡しながら、一度中標津町に入り、野付半島に行く。道路の右も左も海である。車やバイクでは先端まで行けない。途中で駐車場に入る。アヤメやハマナスなどが咲き乱れる原生花園を通り、海水で浸食し風化したナラワラやトドワラの光景を見る。カラフルな原生花園の後に見せられるモノトーンの世界。空の青さがこの現実の唯一の色であろうか。